第56号 株式会社 菅原園 菅原裕順氏

茶業に携わるたくさんのガンバル人の中から、とびきりの頑張りやさんをご紹介するこのページ 
今回ご紹介するのは、仙台菅原園様です。有名な仙台七夕の発案者でもあった前社長が急逝されてから10年。
六代目にあたる42歳の現社長は、無我夢中でこの10年を走り抜けてきました。
現在大きな比率を占めるのは葬儀関係ですが、生協・地元スーパー・県内の会社関係の卸と、中央通・駅ビル・神社の仲見世・本社一階にそれぞれ全く趣の異なる小売店舗という三つの柱で堅実な経営をされています。
何よりも率直でチャーミングな社長のお人柄に引き込まれた取材でした。
株式会社菅原園
取締役社長  菅原裕順氏

笑顔が爽やかで質問上手な社長。
外見の若さとは反対に、内面は魅力的な大人という印象。

四代目の写真を後に社員の皆さん。前列中央が勤続50年の生き字引の大浦事務長さんです。
●先代の突然の死 
父が亡くなったのは本当に突然でした。風呂に入っていて倒れて、救急車で運ばれる途中で心停止。学生時代から家業は手伝っていましたし、当時は仕入と店舗に関わっていましたが、父はまだ63歳。32歳の自分が主軸になるのはまだ先と思っていました。父の死後三年くらいは記憶が空白です。思い出せないほど無我夢中だった。ワンマン社長でしたからね、父にしかわからないことが山のようにあった訳です。何が出て来るかわからない、と覚悟を決めましたが意外と身辺はきれいだった。父亡き後も、父に学んだことは沢山あります。
私は六代目ですが、当社には三代目・四代目・五代目の葬式に立ち会った在職50年の生き字引のような社員がいるんです。彼には本当に色々教えてもらっています。新聞の死亡記事を見て「この方には先代がお世話になったからお葬式に行きなさい」と言われる。そこで「どのようなご縁なのだろう」と思いながら行ってご挨拶をすると、「ああ仙台の菅原園さん、よくぞ来てくれた」と受け入れていただいて、お話しするうちに菅原園の歴史や父の歩んだ道を追体験させていただく、というようなことが沢山ありました。そうやって先祖のありがたみとか、社員に支えられている歴史を実感してきた。若い頃は前しか見ていないでしょう、最近やっと振り返ることを覚えたという感じですかね(笑)。
  
目立たない場所にある中央店だが、お客様は途切れない。ちょっとしたサロンの雰囲気。
●選ぶ楽しみのある専門店
卸も小売もやりますが、やはりお客様に直接商品を渡してダイレクトに反応のある小売は、今後もっとも力を入れていきたい分野です。深蒸し茶しか扱わないとか、静岡茶専門だとか、そういう特長を打ち出す売り方もあるけれど、私は深蒸しも浅蒸しも釜炒りも扱う、産地も品種も限定しない、お客様が自分で選ぶ楽しみのある専門店を目指しています。商品構成も、1つ1つの商品に対するウンチクも、まだまだ発展途上ですけどね(笑)。
 
●多彩な小売店舗
中央店は、わかりにくい奥まった場所にあるのに、常連さんの多い店です。茶道の先生方のご利用も多いので、茶道具もよく売れます。お客様はまず腰掛けてお茶を一服、おしゃべりを楽しんでからお茶をご購入になる。サロンのような店ですね。
その近くにある福の神「仙臺四郎」を祀った神社の仲見世は、商店街の人に「空きが出たから出店しては?」と勧められて店を出しました。商店街の中にある何ともユニークな神社なのですが、一見さんが相手です。最近は海外からの観光客のルートにも組み込まれているようなので、新しい試みが出来ると考えています。
仙台駅ビルはショーケースを並べた売場ですが、店員さんの頑張りもあって結構数字を稼ぎます。当り前ですが徹底して接茶をする、お客様の見えるところでお茶を淹れて見せる。飲んで納得して買っていただくという専門店の基本に忠実です。
本社1階の店舗は自称よろずや(笑)。公共料金の払込が出来ないだけで、お茶と茶道具以外の品揃えはコンビニと同じです。
 
福の神・仙臺四郎が祀られている商店街にある神社の仲見世。懐かしい昭和の匂いがする舞台装置だ。
●現場の声は宝
どの店も店員さんは比較的長いですね。私との距離もとても近い。クレームになりそうだ、と思ったらすぐに私の携帯電話に連絡が入ります。受けた私は本部のお客様相談窓口に即その情報を流して共有する。こういうお客様からクレームが入りそうだ、と事前にわかっていれば、対処の仕方も気の利いたものになりますからね。
「俺に気を使わず、お客さんに気を使ってくれ」といつも言っているので、接客をしていて思いついたこと、アンテナに引っかかったこと、商品のアイデアも直接発信してくれる。暇を作っては店舗をグルグルまわりますが、溜まったストレスを私にぶつけてくるという感じもありますけどね(笑)。しかし現場の声こそが経営者にとっては宝なんです。
店頭に商品を並べただけでは選ばれません。商品に命を吹き込むのは、やはり現場です。ミーティングや会議も真面目なだけじゃつまらない。どんな風にふざけて、真剣に仕事で遊ぶか、ということを大切にしています。どこかにあらかじめ用意されている答を見つけるのではなく、自分たちで答を作ることが目的ですからね。

エスパル店。とても温かい店員さんのおもてなしに心が和みます。
●日本茶の底力
こう見えてもお茶の普及については相当真面目なんですよ。所属している商工会議所や日専連で「お茶の淹れ方教室」の講師をするとね、受講者は男性が多いんですが、みんなお茶の魅力を再発見してくれる。お茶の素晴らしさをくどくしつこく(笑)力説する私の姿を見て「仕事は一生懸命やるんだねえ!」と私自身を再発見する人も結構いるんですが、もしかすると誤解されやすいタイプなのかなあ(笑)!
講師をしてみてわかったのですが、沢山の人がお茶を色付きのお湯のようにしか認識していません。そういう人にきちんと淹れたお茶を飲んでいただくと「おいしい」と感動していただけます。温度や浸出時間によって、同じ茶葉でも色々な味を楽しめるという体験をすると、ぐぐっと日本茶の世界に引き込まれているのがわかる。日本茶の底力を感じます。飲む人は減るかもしれないけれど、日本茶はなくなりはしないという確信が持てるようになりました。
また、おいしいお茶は何たるかという側面だけでなく、二日酔いには日本茶とか、今の生活の中にどうやってお茶を提案していくか、ということも大切なテーマですね。お茶の袋も、茶畑とか純和風とか消費者の生活と遠いイメージが多いけれど、もっと生活感を大切にしてもいいんじゃないかな?
配送ドライバーとして採用した20代の女性が日本茶にはまってね、今3年目なんですが日本茶アドバイザーの資格をとって、外商部に異動させたのですが新茶の時期には見本茶を見てウンチクを語っています。若い人ほど素直に貪欲に吸収するものだ、と感心させられました。
私がチャコちゃん。若い子たちにも人気があります。
●チャコちゃん復活!
1855年の創業ですので、創業150周年。時代に合わせなければ老舗は生き残れない、ということも身に沁みています。
今、お茶の子チャコちゃんのキャラクターを復活させているんですよ。一時期お茶の葉のデザインに変更したのですが、お客様が「菅原園さんてあの女の子のマークのお茶屋さんだよね」とおっしゃるのを聞いて、復刻を決めました。
石巻漫画館の宮城県のキャラクターにも選ばれて、「チャコちゃんの身長は?」「誕生日は?」「血液型は?」と、私たちが想像もしていなかった「チャコちゃんの物語を作る」という経験をさせてもらいました。
ステッカーを作ったらサーファー仲間の若い子たちがサーフボードに貼ってくれたり、4コマ漫画にしてはどうかという話が持ち上がったり、色々な可能性を感じています。
 
本社ビル。コンビニエンスストアの品揃えの店を1階に併設している。
●はじめまして菅原園です
そう、高校時代からサーフィンをやってます。商工会議所や日専連なども含めれば、お茶に関係しない人脈は結構ありますね。茶業界の外側にいる人から言われる一言で、頭の中をガアーッとかき回されることも多い。先日ある人から「お茶屋さんは売り先が見えていないだけじゃない?」って言われて、ずっとひっかかっていたりね(笑)。もちろん茶商組合や日本茶インストラクターを始めとする茶業界の皆さんの取組みに触発されることもたくさんあって、どう組み合わせて自分の経営に生かすか、今年後厄が終わりますから、腹をくくって行動する正念場だと感じています。
「創業150年。はじめまして菅原園です。」
そういう新鮮な気持ちでお茶屋をやります。
 
株式会社菅原園 本店:
〒984-0824
宮城県仙台市若林区遠見塚東1-15
TEL: 022-282-2525
FAX: 022-285-4743