第52号 茗広茶業株式会社 長瀬 隆氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、静岡茶市場のすぐ近くに本社を構える
卸問屋・茗広茶業株式会社様。
今年の三月に現会長の竹澤健吾氏が一代で築いた会社を、
係累ではない四十八歳の長瀬社長に経営のバトンタッチをした。
「会社は公器。適格な人にバトンタッチするのは社会の摂理。」と語る竹澤会長と
「一パーセントも自分が指名されるとは思っていなかった。」という長瀬社長。
アットホームな二人の会話は、社員六〇名という規模にも関わらず、
社員がのびのびと楽しそうに仕事に取り組む社風の源でもあると感じた。 

茗広茶業株式会社
代表取締役社長  長瀬 隆氏

温かく自然体の長瀬社長。
「茶小売店の後継者の
バックアップこそが使命。」



本社工場

若松工場

柳町工場
●もともとお茶関係のお仕事をされている家に育ったのですか?
いえいえ、東京の大学を出てそこで就職も決まっていたんですが、「実家に戻って静岡で働いて欲しい。」と両親に泣きつかれてこの会社に就職したんです。お茶のことは何も知りません、ゼロからのスタートでした。
営業事務として入社したんですが、夕方五時を過ぎると作業服に着替えて工場で八時九時まで手伝う訳ですよ。友達は銀行や証券会社に就職して華やかな話をしているのに、正直言ってきつかったです。当時は二〇名程度の会社でね、先輩達によく「盗んで覚えろ。」と言われました。今振り返ると、マニュアルには著しきれない職人的要素、嗅覚・味覚・焙煎感覚という部分は、この時代に身に付けたという感じです。
 
●入社当時と現在と、事業内容は変わりましたか?
激変しましたね。入社当時は、内地問屋さんと呼ばれる消費地の問屋さんが各地方都市にいらっしゃって、そこに荷物をどーんと送り込むのが主流でした。トラックの手配をし、運送会社と交渉するのが仕事でしたからね。今では流通形態の変化によって、消費地の小売店さんとの直接のお取引ですから、いかにお客様一軒一軒に対してフォロー出来るかがポイントですね。
●創業当時からのPB発想。
会長は、「多品種小ロット対応」の時代を予見していたかのように、昭和四十八年の創業当時から袋にスタンピング(箔押)で後加工する機械を導入しました。五十枚でもその小売店さんの茶銘・店名を入れてお届けするという発想です。老舗がひしめく茶業界にあって、徹底した小回りの対応によってお客様に喜んでいただく。まだPB(プライベートブランド)という言葉もなかった時代ですよ、先見の明としか言いようがありません。
その後、版をカセット式にして短時間で版替えが出来るようにしたり、三から四色の多色刷りを可能にしたりと、改良を重ねて、現在スタンピングの機械は三台に増えました。加えて、和紙の袋や缶シートに複雑な印刷をするリソグラフも導入して、お客様のご要望に細かく対応しています。社員に「お茶屋ではなく印刷屋に就職したみたいだ。」と嘆かれるほど、ご要望は多いですね。そうそう柳町工場はセッティングの工場でして、専門店さんのご要望通りに、お茶を箱にセットして包装紙をかけ、のし紙や一括表示までして出荷します。きめ細かく対応することが当社の特長ですね。

スタンピングで、小売店のオリジナル性を
打ち出す。(本社工場)

自動包装機で包装紙・のし紙まで掛け、 一括表示シール
まで貼って小売店に納品する。(柳町工場)
 
●「火入れの茗広」と巷で言われますが。
そうですか、うれしいですね。当社の強味は「お茶の保管と焙煎の技術」と自負していますので。
会長は機械を工夫するのが得意で、ドラムの熱が均一でなくまん中の部分だけが熱せられることに問題を感じてバーナーを三本に増やし熱の温度をデジタル表示できるように改良させたり、茎茶が熱で膨れるのを嫌って風を起こすファンを取り付けたり、既製の機械のまま満足せず、当社仕様に改良を重ねながら焙煎を追究してきました。こういう社風の中で磨かれた仕上げ加工技術は、当社のもっとも得意とするところです。若松工場にはフルオートメーションの機械設備があり、日産三千五百キロと千五百キロのラインがありますが、やはりお茶は農産物であり毎年作柄が異なるわけですから、データをきちんと取っていても「お茶と向き合う感性」が欠けていては満足のいく茶作りは出来ないと思いますね。
 
●もう一つの特長の保管技術については?
若松工場にはマイナス三十五度の冷凍庫があります。千キロ積みパレットを三百パレット収納できる自動倉庫です。荒茶はここで冷凍保管され仕上げされる日を待つのですが、摘採期の鮮度を失わずに保管し、仕上げる前前日に零度の前室に移し、前日に常温に移し、その後開封して仕上げ加工をするというように、丁寧な手順を踏んでいます。
 
●ISOも2002年に取得されました。
はい、品質管理規格の9001を、本社・若松・柳町の三工場で取得しました。「常にお客様に喜んで戴くべく顧客要求を満たした製品を作る。」というのが、私の品質方針です。補足として、「顧客意見を積極的に聞き、分析し、顧客要求事項を明確にする。」としました。有機JAS認定も昨年取得しまして、お客様の要求に幅広くお応え出来る体制を常に意識しています。

若松工場内の冷蔵庫。最大三百トンの容積で、
商品ごとにバーコード管理がされている。
品質検査も、最後は鍛えられた
ヒトの感性がモノを言う。
 
●消費者の感性を活かした企画。
将来も卸問屋を軸足にやっていきたいと思っていますので、自己満足に陥らないように企画にも力を入れていきます。今回、企画室長に竹澤ますみを抜擢しました。今までは、営業が出張先の専門店様との会話で収集した情報だけをもとに商品企画を立ち上げていましたが、彼女の感性を軸に、実際にお茶を購入する消費者の視点も意識した商品作りを目指します。就任式で彼女が言った決意表明は良かったですよ。「企画室長が商品を作るのではない。若い事務の女性や工場のパートのおばさんの意見を、ターゲットの層に応じて聞いていくから、社員みんなが消費者の視点を持って企画に参加しよう。」という風に呼びかけていました。
 
●以前から、時代を先取りした企画商品を作っていらっしゃいますよね?
当社の場合、時代より少し早過ぎてしまうみたいね(笑)。今でこそ「やぶ北一辺倒ではなく品種茶を。」という一つの潮流があるけれど、十五年前からゆたかみどり・あさつゆ・おくひかり・さえみどり等々のマイナーな品種の苗木を農家に託して栽培していただいてましたから。お得意先の専門店さんに、この品種茶の飲み比べアンケートを実施して、人気の高かった品種を六種類「味くらべ」という名でシリーズ化しました。
シリーズと言えば「茶っぱ」シリーズは、全部で十三種類。生活シーンに応じたお茶の提案という切り口で、急須で飲むお茶を訴求しています。パッケージもリースポジではなく、きちんと茶葉と急須を撮影し、静岡茶百%であることにもこだわりました。このシリーズの中で勉強させていただいたのは、「焙じ茶・玄米茶は廉価なもの。」というのは売り手の思い込みでしかないということです。消費者は「おいしい」「欲しい」「好みだ」と思えば、煎茶だろうと焙じ茶だろうと関係なく千円出せる。また焙じ茶・玄米茶という茶缶に入りきれない嵩のあるお茶こそチャック付きスタンドパックが喜ばれます。底入れできないので作り手の手間はかかりますが、消費者にとっては差別化になるのです。

品種茶シリーズ「味くらべ」。

「茶っぱ」シリーズは、同じ煎茶でもその特徴と相応しいライフシーンを表現するコピーが画期的だ。

有機栽培茶の「こだわり通信」。
ほうじ茶のチャック付きスタンドパックは
人気商品。
 
●「カテキンプラス2倍茶」「ペットボトル用粉末茶」という斬新な商品もありますね。
「カテキンプラス2倍茶」は数年前に出した商品ですが、花王さんのヘルシア緑茶が出てから急に売れ出しました。ペットボトルの再利用をうたっている粉末茶は、こちらの予想以上のヒット商品です。
日本茶のティーバッグは「安かろうまずかろう」のイメージが強いですよね。今、力を入れているのは「おいしく飲んでいただける本格的なティーバッグ」です。茶葉を選び火入れをする段階から、三角ティーバッグに仕上げることを念頭に作り上げました。希望小売価格千円と従来のティーバッグよりお値段は張りますが、充分満足していただけるおいしさです。ティーバッグは安くなければ、というのも単なる作り手の思い込みで、消費者は「おいしい」と「簡単」が両立することを求めているのです。


ペットボトル用粉末茶・カテキンプラス2倍は,
発想の転換から誕生した。


「簡単だけど本格派」がコンセプトの
ティーバッグシリーズ。

 
●最後に、新社長としての抱負をお聞かせください。
大役を命じられて最初は気負っていたのですが、専門店さんの店主から「長瀬さんらしくやればいいんだよ。」と言われて、肩の力が抜けました。私らしくマイペースに、と思っています。社長に就任して三か月たった今、社員の力を信じて任せる、という事の大切さと難しさを感じております。
専門店さんが元気になるようなお力添えをしたい、というのが私達の世代の使命ですね。茶市場へ行くと、ついこの間までは私が「若い人」だったはずなのに、茶髪でピアスのトッポイお兄ちゃんがGパンで一生懸命お茶を見ている。緑茶に新しい可能性を感じますよ。柳町工場の二階には、単身寮が三部屋あって、お茶屋さんや茶農家の後継者の方が修行にいらっしゃるんです。二~三年で戻られてしまうのですが、当社としては若い人に勉強の場を提供することも大切な役割と思っています。元気に楽しく、そして親身に専門店さんと共に成長していきたいですね。

創業者の竹澤会長と企画室長のますみさん。
長瀬社長を支える力強いチームワークだ。
 

茗広茶業株式会社

本社所在地:

〒420-0005
静岡市北番町117-4
電話
054-271-8161
 
FAX
054-252-2550
 
E-Mail
home@meiko-chagyo.co.jp

若松工場所在地:
〒420-0006
静岡市若松町2-5
 
電話
054-273-7701

柳町工場所在地:
〒420-0007
静岡市柳町71-3
 
電話:
054-272-3763