第51号 日本製茶株式会社 松川 直樹氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、三越・高島屋・京王・東武・東急と大手百貨店での販売が、
売上の9割を占める日本製茶株式会社様。
昭和22年、米が配給だった時代に
日本橋の百貨店にお茶を卸すことから創業した会社に、
3年前静岡市内の大手茶問屋・岩崎功商店様が資本参加したという経緯は、
ご存知の方も多いと思う。
お話を伺った松川副社長は、静岡県茶商組合理事長もされている岩崎社長の甥に当たる。
不動産業から茶商に転身した37歳は、生き生きと仕事を楽しまれているように見えた。
日本製茶株式会社
取締役副社長 松川直樹氏

オープンで率直な副社長。
「若き獅子」という印象。

本社2階物流センター。
●異業種から茶業界に入られて、どのように感じられましたか?
封建的・保守的ということかな? 歴史のある業界だから、明文化されていない昔からの決まり事がありますし。
それ以上に認識を新たにしたのは、百貨店さんに対してです。外から見ている時には、もっといい加減だと思っていました。大きな箱を作って、そこで場所貸しをしているようなイメージでね。けれど実際バイヤーさんと話をすると、「詳しく」「鋭く」「厳しい」ということに驚かされます。「百貨店は包装紙を販売している。」とよく言われますが、それは言い換えれば「信頼」を売っているということ。「中身は超一流」という「信頼」ですね。バイヤーさんにもその自負があるからこそ勉強しているし、色々なメーカーと接していることもあって情報量が多いのです。お茶屋よりお茶を知っていると思わされる時もありますよ。
●ギフトとデイリーの割合はどのくらいですか?
ちょうど半々くらいです。
消費者のギフトに対する考え方は、明らかに変化していますね。「厳選して贈る」という方向性に大きくシフトしていると感じます。以前は「30人にお歳暮」というのが、今では10人前後。相手様と顔が見える関係でのギフトですから、「気持ちが伝わるもの」というのが、キーワードです。
●具体的には?
たとえば「たくさん入っていて嵩がある。」という切り口はもうダメですね。受け入れていただけない。「いっぱいは要らないからこだわりのある良いモノを少量贈りたい。」「色々なお茶を楽しみたい。」「お菓子と組み合わせて贈りたい。」等、ありきたりでない稀少性が大切です。
今ギフトで力を入れているのは、「大棟」「諸小沢」というブランドです。グループ会社が静岡にあり、本当に良いお茶を育てて商品に出来るという利点を最大限に活かしました。「諸小沢」は、本当に一つの山の斜面の上から下まですべてのお茶を当社が購入するのです。

ギフトの主力、大棟と諸小沢。
60g~80g入りの商品の詰め合わせが増えているという。
●生産家の方は安心ですね。
そうですね。当社には過去の販売実績データに基づく年間スケジュールがあるので、それに従って仕入れられますから。
山間地のお茶は機械での効率化が図れない分だけ手間がかかりますが摘採時期が遅い。それを市場で叩かれたのでは採算が取れません。「手間ひまを買う」というのかな、「こういうお茶を作ってください。」とお願いして、そのために努力していただいて、全量買い取る。お互いに望んだものが出来るということです。
売り手と作り手が一直線。
消費者への視点にブレがない。
●グループ会社が静岡にあるというのも大きな特長です。
販売の細部については当社に任せられていますが、販売会社が消費者からの情報をグループ会社にフィードバック出来、「どういうお茶を」という細部を話し合える関係だというのは、当社の強みです。そして販売会社の実績を元に生産家を育て仕入れられるというのはグループ会社としても大きなメリットだと思いますね。作り手と売り手が一直線にブレがなく消費者に向いているのです。

本社2階の物流センターには、ギフトだけでも100アイテム以上があり、
お中元・お歳暮期には 30アイテム以上が増えるという。
静岡グループ会社より袋詰め・缶入れ・箱入れが終わり、
栞までセットされた状態で納品される。


ここで、包装・荷物貼りをして出荷される。
簡易包装が主流だが、「きちんと包装してほしい。」というお客様には、各百貨店のルールに則って 、
回転包みをし、のし紙をかける。
その手際の良さは神ワザのように素早い。

物流センター長の斉藤氏。
データと現物のチェックを怠らない。
遊び感覚で生産履歴が確認できる
「履歴管理システム。」
●ドリップ茶等新しいことにも果敢にチャレンジされていますね。
男ですからね、夢はあるわけです(笑)。新しいことは先駆けてやりたいですよ。人のやっていないことをやれば、「とりあえず話だけは聞いてみよう。」となる。その機会だけでも意義があります。
決断のスピードはきっと不動産を生業としていたからですかね(笑)。もちろんデータの裏付けがあって決断するわけですが、全部完璧に正しいということはありえないし、多数決でヒット商品が生まれるわけではない。
一方、最後に決断するのは自分といっても、そのプロセスでは消費者の声を聞くこと・社員と話し合うことを大切にしています。会議の中でアイデアが生まれるし、練り込んでいくことが出来る。ドリップ茶も、発売当初は行き詰まったのですが、「ノベルティにしたら売れるんじゃないか。」ということでチャンネルを変えたら、大手企業様等で採用していただくことが出来、芽が出て来ました。
新しい挑戦としては、生産履歴をカメラ付き携帯電話で確認する履歴管理システムの構築があります。もちろん現在店頭にあるお茶も、トレーサビリティがとれるものだけですが、それを消費者が簡単に確認することは出来ませんでした。販売員に質問していただければ、「どこの生産家のお茶で肥料や農薬の使用状況はどうか」ということを確認することは出来ますが、そのためには店員がロットナンバーを本社に連絡して調査をしてという段取りが必要で、時間がかかったのです。この新しい履歴管理システムは、生産者名・収穫日・品種等の簡易情報を、茶袋に添付した「収穫管理カード」の二次元コードで管理します。利用農薬や散布履歴・茶商段階での配合比率等の詳細情報は「データベース」で常に更新します。茶商は専用カメラで二次元コードを読み取り、ロット番号で商品管理をし、配合や加工情報を更新した「加工管理カード」を商品に貼り、それが店頭に並ぶという流れです。消費者が店頭でカメラ付き携帯電話で二次元コードを読み取れば、産地名・品種・配合比率等、商品を選ぶ基準となる付加価値情報を一目で確認できますから、消費者にとっては遊び感覚でお茶の生い立ちが調べられ、安心して購入することが出来るし、差別化にもなりますからね。

ドリップ茶と有機栽培茶。
●画期的ですね、いつ頃実用化されるのですか?
2004年1月当たりにまずデイリーのお茶からスタートします。新茶期以降に本格的に組み入れて、ゆくゆくはギフトに育てていきたいですね。
●打って出るわけですね?
いえいえ、そんな風にはまったく考えていません。あくまでも「求められていることの一つではある。」というスタンスですよ。ただし情報の開示は、食品に対しては増々求められていくという確信はあります。スーパー向きに有機煎茶も扱っていますが、これも百貨店の対面販売であれば情報を正しく伝えて安心していただけるけれど、スーパーの棚段では安全という差別化が有効だろうと考えたからでして、これだけで一山当てようという気はありません。全体のバランスは大切ですからね。
もう一つ、「割安感」も大切にしています。つまり「この味でこの値段ならお得。」という感覚。ただ価格が安いのが喜ばれるという時代ではないですからね。ある百貨店のセールで、百グラム五袋で二千円という商品を出したら、一週間で四千本売れました。飲んでみて「この価格でこの味ならお得」と判断すれば、五百グラムという量でも購入するのだ、という新たなる発見でしたね。
試行錯誤する中で「なるほど。消費者はこういうものを好むのか。」と発見する訳です。四季は受けますね。「夏茶だより」をたとうにして採用しましたが、水出し煎茶のティーバッグも、ギフトとして詰め合わせで売れました。また「水出しはティーバッグ」という固定概念ではなく、リーフでも水出しが出来るとアピールすることで、夏の需要はまだまだあると感じましたね。
時代の変化とともに消費者の志向も変化しているわけですから、固定概念にとらわれずに新しいことにチャレンジしたいし、今までそこにあったけれども日が当たらなかったものに対してもスポットライトを当てて目先を変えることで再び命を吹き込みたい。お茶のプロとしての背骨をしゃんと持ちながら、柔軟な発想でお客様の望みに応えていきたいと考えています。

鮮度管理を重視するため、大きな冷蔵庫がある。

日本製茶株式会社

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株式会社岩崎功商店

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