茶事記58号 クローズアップ・ピープル 経営者登場33

 

●早かった小売店出店
 産地問屋だった成岡謹三商店が、「小山園」というお茶屋さんを購入して、呉服町に小売店を出したのは昭和32年。まだ問屋がアンテナショップを出す、という時代ではなかった。直接消費者に売りたい、消費者の声を聞きたい、という先代の決断による出店だったが、周囲からは「なぜ?」と驚かれたと言う。   
  もともと、消費地のお茶屋さんへの産地問屋としての役割、KIOSKでの販売という鉄道弘済会との取引、という二本の柱があり、そこに小売店の展開という三本目の柱が加わった。慶応元年創業とあるが、「伝統を伝えるには革新が必要」という守りと攻めの両輪をまわす経営で、目まぐるしく変化する時代を乗り越えてきたのだ。
●商品を愛する!
 「私は社長の弟である専務の妻で、専業主婦の時代が長かったのです。お茶に関しては素人同然なので、中味のあるお話ができるのかしらって、とても心配!」と開口一番。笑顔の愛くるしい成岡常務の取材は始まった。   
  「私が幸せなのは、私自身が小山園のお茶を『本当においしい!』と心の底から思えること。お客様にお茶を淹れて差し上げて『ああ、おいしい!』とおっしゃると『そうでしょう!?』って返せる嬉しさ。自分が愛した商品は売れますよ。だって愛情がお客様に伝わりますからね。  
  専門店にとって、商品を愛せるかどうかは、とても大切だと思うんです。価格を安くして愛情の持てない商品を売ったとしても、安さで商品を選ぶ人は、もっと安いモノがあったら、そちらに逃げていきますよね。そんな安売り合戦で勝負したら、規模の大きさイコール強さなんですから勝てるわけがないですよ。当社は価格というような単純な物差しの土俵に上らずに、どうお客様に喜んでいただくか、ということに心を砕いています。」
●店長の情熱
呉服町本店を含め、イトーヨーカ堂や駅ビルのテナントなどで小売店舗は八店舗。店員は圧倒的に女性が多い。その統轄という立場の常務だが「私は力不足で。どの店の店長も、すごく情熱があって経営者のような気持ちで仕事に取り組んでくれています。よく『小山園さんの若い店員さんは、若いのにいまどきの子じゃないみたいだね。とても感じがいい』とお客様にお褒めいただくのですが、採用については学校推薦をそのまま受け入れていますので、店長の教育というか躾が行き届いているんですね。」
●タネを蒔かなきゃ刈り取れない
 ティーパックパッカーの導入もイの一番に決めていただいたし、給茶スポットもわざわざ保健所の許可をとってのエントリーをしていただいた。「成功事例が出てからでもいいのでは?」とか「それでどれだけ儲かるのか?」というような意見があったとしても不思議ではないのだが「これって種蒔きじゃないですか?タネも蒔かずに刈り取ることは出来ませんから。」と常務は屈託なく笑う。   
  四月十日のスタートから熱心に給茶スポットに取り組んだことがマスコミの目に止まり、新聞やテレビの取材が新茶前に相次いだ。マスコミの報道で触発され、インターネットで給茶HPをチェックして来店する客層は、従来の客層から一気に若返った。驚いたのは若い世代は女性だけでなく男性も相当数いること、またウィークデーは、毎朝必ず給茶するサラリーマンや昼休みに毎日立ち寄る背広や制服を着た常連さんができたことだ。  
  キャンペーン価格百円で、千五百円の茶葉を使うのは、「給茶スポットは有料試飲だ」という思いがあるから。その場で一口飲んで「リーフで淹れるお茶ってこんなにおいしいんだ!」とつぶやくお客様の笑顔を見ると、茶葉のグレードを下げる決心がつかない。
●手間を厭わない現場
 ティーパックパッカーもスタート時は無料でサービス。「三百円の棒茶をティーバッグに」という希望にも少々こわばる(!?)笑顔で応えて来た。「でもそういうお客様に限って、棒茶を包装しているときに、千円のお茶を七本購入してくださったりするんです。損して得取れって本当ですねぇ」としみじみ語る大蔵店長。いつも一生懸命で、そこが可愛らしくて、ファンが多い大蔵店長は、手間が増えることを厭わない。   
  事実ティーパックパッカーも給茶スポットも手間がかかる。経営サイドが前向きでも、現場は拒否、というパターンもよく耳にする。ところがこの大蔵店長は逆。「長くご愛顧いただいている本店のお客様は50歳以上が主流です。簡便なモノばかりに囲まれて育った若い世代の人たちに、どうやったら本物の美味しさを伝えられるだろう、もっと沢山の方にお店に来ていただきたい、小山園のお茶を一口飲んでいただきたいって、ずっと思っていましたから。こういう新しい挑戦が二つも出来て、お客様にも喜んでいただけたし、今までご縁のなかったお客様と繋がることができた。今年は本当に幸せでした。」  
  二つの試みの相乗効果か、今年の新茶は例年にない賑わいで、二千百円で販売しているタフマグも五月下旬までで百本売れたという。
忙しかった新茶期
 「私は山梨の出身でしてね、全くお茶に無頓着だったんです。でも小山園に入社してから、どんどんお茶が好きになりました。そういうお茶の魅力を一人でも多くの方に伝えられたら、と思って仕事をしています。   
  お客様は全部ちがいます。ですからマニュアル通りにはいきません。一人一人ちがう心に、どう響くか、響かせられるか‥。お客様から学んでいくしかないんですね。でも、お客様は尊いですよ。間違っても心をもって謝れば通じます。私自身沢山失敗しながらお客様に育てていただきました。」と大蔵店長。  
  「どんなに店内が混んでもお茶一杯差し上げることで気持ち良く待っていただけることができて、今年の新茶期は日本茶の効用というものを再認識させられました。」と常務。クレームが出るのではないか、と心配する程の忙しさだったが、とにかく笑顔で乗り切った。百円の給茶スポットのお客様は、混んでいると店内を見回しながら一段落するのを待ってくださる方が多く、ついで買いもしていただくという副産物もあったとのこと。  
  「何でもやってみなくちゃわからない。老舗ですけれど格式を目指しているのではないので、どんどん挑戦して、失敗もしながら学んでいきたい。沢山のお茶屋さんが給茶スポットにエントリーされたら、すごく世の中が変わると思うんです。ちょっと一息つける場所が町のそこここに生まれるっていうことでしょう?今は本店だけの取組みですけれど、駅ビルのように沢山の人が通る場所でもやれたらいいなあ、と思っています。」
小山園ではじめて知ったお茶の味
 駅ビル・パルシェ店にお邪魔した。ここの店長は杉本さん。全部で三人の販売員、全員正社員で勤続年数は十年以上。試飲のお茶をまず飲んで「おいしいねえ、お宅は何ていうお茶屋さん?ああ、小山園さんて言うの。」とお茶を購入する老夫婦。「いや、試飲してもお茶の味なんかわからないし、人にあげるだけだから‥」と言いつつ試飲して「おいしいねえ!」と感嘆するサラリーマン。「小山園ではじめて知ったお茶の味」というキャッチフレーズの真髄を見た。   
  「どんなに忙しくても湯冷まし二回、これは徹底しています。私も大蔵店長と同じパートからのスタート。小山園の素晴らしいところは、年に数回の店長会議で、社長・常務・部長といった方たちが自らお茶を淹れてどんどん飲ませてくれるところ。自社のお茶だけじゃなくて他社さんのお茶もです。社長は職人気質だから、真面目にまっすぐにしっかりとお茶づくりをしてくれてますから、コクがちがう、香りがちがう、私たちが一生懸命売って回転がいいから鮮度もいい。自信をもってお客様にお奨めできるんですよ!」
お客様の声を仕入れに活かす
 売り手のアツイ想いに比べると、作り手の鈴木部長は物腰柔らかく謙虚だ。   
  「どこのお茶屋さんも皆さん努力されていますから、当社が特別ということはないと思うのですが、静岡という集散地にあって個性的なお茶を仕入れてブレンドしてもっともおいしいと思えるお茶を仕上げる、ということを大切にしています。おいしい、というのも、昔は『このお茶飲んでいれば間違いないよ』という売り手の押し付けでも許されましたが、今はお客さんサイドに立ってお客さんの声を仕入れに反映することが求められる時代。そういう意味で、仕入れから販売まで一体となっていることはとても心強いですね。」
ISO環境シリーズを 全社で取得
 鈴木部長の入社当時は旅と言えば鉄道だった。帰省する年末年始やお盆の季節、東京八重洲口や上野広小路に臨時売店を出すと、一人三万円四万円とお土産が売れて、商品補充にてんてこ舞いだった。今や鉄道はビジネスが主流。プライベートの旅行は車が多いので、「静岡茶」といえば飛ぶように売れる時代は終わった。   
 この流れを踏まえ、静岡の人が県外にお土産にするお茶、という余所行きの商品群に加えて、県外から静岡にいらした方が自分用に購入することを想定し「静岡の家で飲むお茶」という普段着の商品を開発してKIOSKで販売すると、なかなか人気があって驚いたという。  
  「消費地の小売店さんにとっても、お茶を仕入れて製造するだけでなく、静岡で私どもが小売をすることで得た情報というのはお役に立てるのではないか、と考えています。」と語る鈴木部長。  
  ISO環境シリーズも製造も販売も含めた全社で取得し、社員の結束は高まった。給茶スポットは環境保全運動としての側面も評価できると言う。「省エネという内側に向かう統制だけでなく、お茶を介して環境に対する意識を世の中に発信し貢献する。そういう気持ちが今後大切になっていくと思います。」

 
 
 

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