一杯500円の日本茶が売れるワケ

「知った」を「やった」にする凄さ
三重県で伊勢神宮の次に大きな椿大神社の参道に、生産農家の方が出された日本茶カフェがあります。その名も椿茶園さん。ここでの日本茶のテイクアウトは、一杯500円!一日平均40杯。休日は一日100杯を超えるのだそうです。使う茶葉は5グラム。「5グラムの茶葉を500円。農家にとって、こんなに嬉しいことはない。ほんとにこの店に挑戦して正解でした」と語る社長の市川さんは、いつも吉村の内覧会の勉強会に必ず参加される勉強熱心な方です。「この店はね、勉強会でなるほどーっと思ったことを実際にやってみて、自分が実感し納得したことを最大化しただけですよ。」とおっしゃるのですが、「知っている」と「やってみた」というのは大きな違いなのだということを実感しました。

今ここで開封することで「あなただけのために」が伝わる
椿茶園さんが勉強会ネタから実践したことは大きく3つ。「液体を売る」「パーソナルギフトを売る」「お茶をカッコよく見せる」
1つめのきっかけは「お茶屋さんには今飲めるお茶を売っていない。売っているのはお茶の素」という橋本の話。お正月の参拝客の試飲に使った山のようなお茶殻を見てため息をついた時に、それなら息子(当時高校生)に一杯160円でテイクアウトのお茶を淹れさせようと思い付き、自分は従来の方法でお茶の試飲を振る舞いながら隣で息子さんが淹れたての煎茶のテイクアウトをしてみたところ上々の売れ行き。試飲をしてから、テイクアウトのお茶を購入する人も多く、液体のお茶は販売できると実感。日本茶メニューに特化したお店を持とうと決意されました。
2つめは「中元歳暮のような儀礼的なギフトから、パーソナルギフトに市場は変化している」という橋本の話。試しに昔の店で飲み切りの一煎袋や和チャックを活用してみると、グラム単価は割高でも、購買層が明らかに広がることを実感。新しい店舗でも、一煎袋と和チャックの品揃えを充実されました。特に1杯500円のお茶を淹れるときには、一煎袋の封をその場でハサミで開封することがポイントで、消費者の方は「私だけのためにわざわざ封を開けてくれた」と背筋が伸びるのだそうです。また、茶缶からお茶を出すのとはちがい、新鮮であることや売り物であることが直感的に伝わるので、試飲のお茶とは別物と理解されるとのこと。お茶を一杯飲み終わった後に、1袋250円で購入する方も多く、パーソナルギフトとの連動を実感されているそうです。
カッコよく淹れる
3つめは、「今まで飲んだお茶の中で一番おいしいお茶はお茶屋さんが淹れたお茶」「コーヒーはバリスタが憧れの世界を作っているけれど、日本茶は裏の水屋でこっそり淹れて出されるので、素敵な淹れ方のイメージが持てない」という二つの消費者の声。それなら、「目の前でカッコよく憧れるようなお茶の淹れ方をしよう」と決意され、店舗にお茶を見せて淹れるためのカウンターを作られました。温度付きのステンレスのケトルで「お湯の温度」。砂時計で「浸出時間」。計量カップで「お湯の量」。飲み切りの一煎袋で「茶葉の量」。口で説明するのではなく、見て伝わるように工夫し、一つひとつの動作は無駄な動きがなく、ゆったりと堂々とされています。所要時間は約2分。
価格設定は「お前がそれだけの想いで淹れたお茶をワンコイン未満で売るな!」という友人カメラマンの一喝で500円に。最初はコワゴワだったそうですが、陶器でのテイクアウト、という意外性もあって、充分に受け入れられています。「2分で5グラムで500円を頂戴すると思うと、こちらも一期一会の気持ちで真剣に淹れる。きっとそれもいい空気になっているのだと思います。」