第56号 鹿児島堀口製茶有限会社・株式会社和香園 堀口泰久氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、今年の新茶期に新聞各紙の伊藤園様の全面広告の中で「良質の国内原料茶葉供給のパートナーである生産農家」として写真入りで大々的に紹介された堀口泰久氏。この四月には生葉処理能力一時間当り5トン、床面積6,000平米を超える日本最大級の新工場を竣工されました。この製造部門を受け持つのが鹿児島堀口製茶様です。
株式会社和香園様は、作った茶葉を販売する日本茶専門店。自社の茶畑で生まれ、新工場で仕上げられた商品を、お客様のお手元にお届けし、そこで拾ったナマの声を生産現場にフィードバックすることが使命です。
堀口社長は57歳。ものすごいスピードで現在の規模まで成長して来られた経営者としての決断や信条について伺いました。
 
鹿児島堀口製茶有限会社
株式会社和香園

代表取締役 堀口泰久氏
真剣に仕事の話をされているときの眼光は鋭いが、笑顔はとても優しい社長。
 
旧工場の横にある
和香園一号店。
 
●農業高校を卒業して、お父様の後を継いで就農されました。その当時の様子について教えてください。
茶園は1ヘクタール半。牛と豚が2頭ずつ。あとは田んぼという農家でした。私が生まれた1948年に父が個人創業したので、当社の歴史は私の人生の足跡と重なるわけです(笑)。
男兄弟が4人いて、私は2番目。他の兄弟は進学しましたが、私は家業を継ぎたかった。当時はお茶よりも養豚に対して興味がありましたが、相場や環境調和という点で断念し、お茶に照準を絞り1974年に、新たに荒茶工場を作りました。一方兄は大学を出て伊藤園さんに就職したのですが、今思えばこのご縁に導かれて現在があるのですから、天の意思というのでしょうか、自分の力だけではどうにもできない運命を感じますね。
 
●今までの会社の歩みの中で、転機はどこにありましたか?
1982年の晩霜は忘れられません。全滅に近い大打撃でした。頭を木槌で殴られたようなショックでしたよ。肥料代も払えない、もうダメか、と思いました。とにかく歯を食いしばって立ち向かったという記憶しかありません。今でも新茶期は朝の3時にふいに目が覚める。居ても立ってもいられなくて工場でのお茶の出来具合の確認や、茶園の巡回に出かけ、契約農家さんで朝食をご馳走になることもしばしばあります(笑)。
しかしピンチはチャンスなんですね。この苦しい経験があったからこそ、防霜ファンやスプリンクラーという大きな改善ができた。人間順調ではダメ、危機感から意識は目覚めるんです。
もう一つ、1997年は大きな転機でした。お茶の苗木を自分で作ろうと思い立って、苗木のためのビニールハウスを借りようと探しました。当時自社茶園が20ヘクタール・契約茶園が25ヘクタールという規模ですから、そんなに大々的でなくていい、という気持ちでしたが、その時に出会った菊の花の栽培農家さんが、生産が上手く行かなくて精神的にも参っていてね、20アールのビニールハウスを全部借りてくれ、とおっしゃる。いくらなんでも大き過ぎる、と思いましたが、事情を聞いているうちにどうしてもその人を助けたくなって全部借りるという決断をしました。
その時には、作った苗木を売ろうと考えたのですが、そうそう売り先は見つからない。逆に後継者のいない畑は、堀口さん譲り受けてくれないか、という話まで出る。それならば、と畑を長期契約で借りてその苗を植えて茶園として育てよう、と発想を転換しました。
そこから契約茶園の面積が飛躍的に伸びた。広くて乗用型が入れる規模ですから、生産性は大きく向上しました。乗用機械を使用しない場合の10アール当りの茶畑での年間労働時間は126時間、鹿児島県平均が74.93時間、当社の昨年実績は26.2時間です。目標は20時間です。こうやって生産性を上げることで、国際競争に負けない緑茶生産を目指そうと努力しています。
10年前に、その人を助けたい、と思った私の気持ちをちゃんと見ていて、今度は神様が私を助けてくれたのだと思いますね。私は京セラの稲盛さんの影響を受けて勉強しましたが、「人から信頼を得るにはまず人のために尽くすこと」ということ。結果は後からついてくるのかもしれません。
 

寒冷紗をどんどん巻き取る

次に乗用型摘採機が
どんどん摘み採る。

摘採機からトラックの荷台の
コンテナに茶葉を移す。

台風をヒントに、
水圧と風圧で害虫を駆除。

噴口部分は分速60m
 
●どういう経緯で小売店舗を出そうと考えられたのですか?
最初は工場に直接買いに来る近所の人のため、工場の隣りに1号店を作りました。1982年のことです。しかしきちんとした専門店を作りたいと思ったのは、それより前、25歳の時に知人と二人で東京にお茶の行商に行った経験からです。
車にお茶を積んで、宮崎からフェリーで川崎まで。川崎・東京・埼玉と行商したのですが、少ししか売れなかった。もちろんその当時の鹿児島のお茶は品質が悪いという面もありましたが。
同じ農産物でも野菜や果物とはちがう。お茶は暖簾だ、信用なんだ、ということを痛感しました。帰りのフェリー代も出ません、陸路帰る途中、スピード違反で捕まってもその罰金すら払えない。そんな苦い経験から、精魂込めて作ったお茶を自分の暖簾で売りたい、という気持ちが育っていったのです。
和香園は堀口製茶の法人化と同じ1989年設立です。最初から製造と販売は別の会社にしました。販売をしてお客様の声が直接聞けるというのは大切ですね。製造だけをしていると、お茶を評価する指針は価格だけになりがちです。しかし実際の消費者は多様な物差しを持っている。見た目のカタチよりも味や香りを評価することもわかったし、品種の好みについても一辺倒ではないのです。
お茶工場の冬場は暇なので、製造部門の社員も急須とポットを堤げて、お歳暮の売上を作るために一軒一軒まわりました。そこで飲んでいただく、喜んでいただくことは作り手にとっては大きな励みになります。お客様の声を聞けば、その声を反映した茶園作り・製品作りをしようと考える。売りっぱなしで終わらないためにも、製造と販売の両方の会社を持ったことは良かったと思います。
お蔭様でいくつかの店舗以外は、量販店さんからお声がかかってテナントとして現在10店舗になりました。
 
交流広場。
 
●農薬を使わない害虫駆除機など、前例のない取組みが得意ですね。
お茶は健康飲料ですし、生産者の健康や環境を考えても、農薬に頼らない病害虫の駆除は出来ないだろうか、という思いが強くありました。ある時、台風直後の茶園に虫がいなくなる、ということに気づいたのですね。強い風と雨によって、虫は吹き飛ばされ死んでしまうのです。ならば台風を人工的に起こせないか、と考えました。
しかしここからが大変でした。作っては壊し、の繰り返しです。メリットは明らかなのです。農薬散布が減らせる。摘採直前まで使用できる。害虫の成体だけでなく卵も洗い流せる。飲む人にも作る人にも嬉しいことです。
何度もやめようか、無理じゃないか、と考えました。しかし松下幸之助さんも「成功とは成功するまで諦めないこと」と言っているじゃないか、日本茶は農薬がかかっているというイメージを少なくしたい、という大きな目標もある。そんな風に自分の萎えそうな気持ちを叱咤して実用化までこぎつけました。
前例のない取組みと言えば、乗用型の寒冷紗巻取り機の開発もそうです。茶園に覆いをする寒冷紗を人力で巻き取る作業は、特に雨の日は重労働です。茶園面積の拡大で人員確保もなかなかうまくいきませんでした。また、乗用型摘採機がすぐに追いついてしまい効率が上がりません。自動化できないかと自分達で工夫して開発し、2003年の一番茶から実用化しました。
 
茶園の規模拡大と設備投資
 
●チャレンジャーなんですね。

考えると、経営も人生も、「もうダメだ」「どうにもならない」という状況の中で、どう判断するのかということを常に試されているような気がします。失敗をする、逆境に置かれる。それを天が自分に与えた試練なのだ、と前向きに受け止められるかどうか。「どうして俺ばっかり」とマイナスに受け止めたなら、自ずと結果は知れている。「ピンチはチャンス」とプラスに受け止め、潜在意識に浸透するほどの強い思いで成功を信じて創意工夫を重ね諦めなければ道は拓ける。成功と失敗の差はほんの紙一重。諦めない思いの強さで決まってくる。そしてそのような成功体験を重ねることで、人間は成長していくのだと思います。

 
トラックごと生葉の重量を計測する
トラックスケールが2台。
8箇所の受け入れコンテナ。

トラックの荷台からフォークリフトでそのまま投入。

生葉洗浄機。
蒸し工程。

下揉み工程。

仕上げ工程。
中火工程。

 

 
●FA(ファクトリー・オートメーション)新工場は事業の集大成ですね。
いえいえ、とんでもない。ここが新しいスタートラインだと考えています。
規模も大きく最新鋭の加工施設ということはもちろんですが、外部の新鮮な空気を熱交換機に伝えるために地下ピットから供給することで茶粉吸い込みによる品質劣化を防止するとか、周辺の皆さんに騒音でご迷惑をかけないように音を地下へと逃がす装置を採用するなど、今まで「困った」「このままではマズイ」と感じていたことは、これを機会に改善しました。また施設と地域を繋ぐ場として交流広場も作り、新茶祭りや野外演奏会などに活用されています。
今年の新茶は好評でした。ひとつは芽に力があること。若木が成長し、畑の手入れをしっかりできたということですね。
二つめは新しい設備と使いこなす技術。私は新工場を「細心の匠と最新の設備が活きる所」と位置付けています。社員が機械に使われるのではなく、機械と仲良くなって心を通わせた結果、お客様にお褒めの言葉をいただける新茶ができました。
三つめはパッケージを新しいデザインのチャック付スタンドパックに一新したことです。中味も大事ですが、見てくれも大事です。社員が自分の会社の商品に誇りを持つためにも、お客様が当社の商品に愛着を持っていただくためにも、オリジナル性のある独自のパッケージは必要です。
自分たちで育て、自分たちで作り、自分たちで詰めたお茶を、自分たちのパッケージで、自分たちのブランドと店で売り、自分たちのお客様を増やしていくこと。その第一歩を、自信を持って踏み出せたことに幸せを感じますし、今まで支えてくださったたくさんの皆さんに感謝の心でいっぱいです。
環境にやさしく、高品質・低コストの永続的な緑茶生産を目指して、これからも創意工夫をこらし、積極果敢に不屈邁進してまいります。
 

鹿児島堀口製茶有限会社

本社所在地:

〒899-7503
鹿児島県志布志市有明町蓬原758
 
電話
099-475-0931
 
FAX
099-475-1976

株式会社和香園

本社所在地:

〒899-7503
鹿児島県志布志市有明町蓬原758
 
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FAX
099-475-1517
 
URL
www.wakohen.co.jp
支店:
鹿児島店/ダイエー店/プラッセだいわ鹿屋店/
プラッセだいわ指宿店/プラッセだいわ出水店/
サンキュー寿店/サンキュー西志布志店/タイヨー志布志店/
N’sシティーニシムタ串間店/有明店