第55号 長峰製茶株式会社 多々良高行氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、静岡県焼津市に本社を置く長峰製茶株式会社様です。荒茶加工から始まり、卸、そして小売店舗の経営と次々に挑戦し、静岡県茶商工業協同組合の副理事長という要職もされた多々良浩吉氏。「頂点に立てば後は下降のみ、まだまだということは、これからいくらでも良くなるということ。」という信念のもと、ご自身が社長職を先代から譲られた三十二歳という年齢にご子息がなられたのを機に、代表権を持たない会長職に退かれました。まだバトンが渡ったばかりの新社長・多々良高行氏(三十三歳)にお話をうかがいました。 

長峰製茶株式会社
代表取締役社長 多々良高行氏

33歳。謙虚で清潔感がある社長、多々良高行氏。

一歩店内に入ると活気がある。 流通団地の中にある横浜金沢店。
 
喫茶スペースから店内を見る。
 
● わざわざ行くお茶屋さん
取材にうかがったのは横浜市金沢区幸浦の横浜金沢店。二〇〇四年十月に改装した七十坪の小売店舗には三々五々お客様が途切れない。喫茶スペースでお茶や甘味を楽しんで、しっかり物販にまで結んでいる。「喫茶をやってもお茶の葉は売れない」という声をよく聞くが、ここは例外のようだ。
立地は良くない。流通団地の中にあり、まわりに小売店舗は皆無。店舗前の駐車スペースは六台分。近くにジャスコやコストコがあるとはいえ、「わざわざ行かなくてはならない」お茶屋さんであることは明らかだ。
 
● 荒茶加工から卸、そして小売へ
明治初年創業の長峰製茶は、お茶の荒茶加工から始まった。現会長が社長となった三十二歳の初仕事は、五百坪の近代的な仕上茶工場の建設。「その工場で生産される茶葉を売る場所が必要」という事情も後押しして、都内有名百貨店との取引が始まった。
産地のお茶のおいしさを、消費地に行って身を削ってアピールすることは、産地問屋の役割の一つという使命感もあった。小売をすることで直接消費者に届けるための苦労と喜びを知ることもできた。その延長線上に現在八店舗となった直売店がある。
 
時間を楽しむ空間
元々百貨店の配送基地だった横浜金沢店も、社長が常駐する町田店も、従来のお茶屋さんのイメージとはどこかちがう間口の広さを感じる。まず売場が広々としていること。コテコテの和風でなくゴージャスな洋風でもなく、ちょうど今の私たちのライフスタイルを反映したような居心地のいいカジュアルな感じ。
また、商品ごとに飾られているPOPが充実していて、お茶の種類やこだわりをどうにかして消費者に伝えようという熱い思いが感じられること。たとえば「抹茶入り深むし茶」のPOPでは、お客様の声が手書きで添えられ、味の特徴は甘み・渋み・香りの三つのポイントを赤いシールの数で表現。三名で飲むなら一回六グラム、だから百グラムで約十七回分。つまり急須一回が三十七円という情報付き!
周辺商品も色々で、お茶を使った和菓子・洋菓子・焼津からお取り寄せの名産品まで。その上喫茶では、煎茶セット・抹茶セットの他にクリームあんみつ・アイスぜんざい・ところてん等、充実のメニュー。人気の抹茶ソフトも粉末茶をトッピングしたコクのあるおいしさでたったの一八〇円。目的がなくても「何かいいモノ、おいしいモノはないかな?」と立ち寄れる雰囲気のお店だ。
実際に家族連れが来店していてもお母さんはお茶、お父さんは名産品、子どもは抹茶ソフトやお菓子、と、各自が自分の居場所を見つけて長居しているのが印象的。買うための店ではなく売るための店でもない、お店に行って帰るまで、その時間を楽しむことが出来るお店なのだ。
 
来店していただくことの尊さ
社長は大学卒業後、大手量販店でシステムエンジニアとして働いた後、生産家のもとで一ヶ月修行し、その後長峰製茶の工場で働いた。夜も朝もなく働く新茶期の現場を知ったことで、生産者・製造者への感謝の気持ちを今も持ち続けている。
平成十年(一九九八年)の町田店立上げと同時に店長として抜擢され、固定客ゼロから八〇坪の小売店舗を出発する。今でこそ周辺にロードサイド店が点在するが、開店当初の町田店の周囲にはお店が一軒もない、畑の中にポツンとした状態だった。「こんなところにこんな大きなお店作ってしまってだいじょうぶ?」とお客様に本気で心配されたことも一度や二度ではない。
どうやってお客様に足を運んでいただけるか、買う前にまず来店していただくことに知恵を絞った。広々とした店内を生かして、地域のお客様の折り紙やお花のお教室、ピアノの発表会の会場と、お茶にとらわれない「地元の人々が集う場所の提供」をしてきた。そんな経験が、「来店していただいたこと自体が尊いこと」という営業姿勢の根底となった。
 
ゼロから積み上げる喜び
ここに開店八周年にお客様にお送りしたDMがある。
  平素は長峰製茶をご利用いただき、厚く御礼申し上げます。町田根岸店はこの十月で八周年を迎えることが出来ました。これも偏に皆様のお陰と従業員一同深く感謝しております。本当にありがとうございます。これからも一杯のお茶に真心をこめて、お一人お一人のお客様との出会いを大切にしてまいります。今後とも長峰製茶町田根岸店を宜しくお願い申し上げます。思い起こせば八年前、夫婦二人でこの地に来た時には周辺にはまだたくさんの空き地が残っておりました。他に店舗はなく車の通りも人の通りも少なく、不安になることばかりでした。周りに少しずつ店舗が出来始め車の通りも人の通りも増え当店のお客様も少しずつ増え、これならと思えるようになったのはここ二、三年のことです。現在、町田根岸店では一万二千名を超える皆様方に会員登録をいただけるようになりました。
私事になりますが、こちらに来て二年目に生まれた長男が今年から元気に小学校に通っています。赤ちゃんの頃をご存知のお客様はランドセルを背負っている長男を見てたいへん驚かれます。「はやいものですねぇ」お客様からのそんな言葉が今とてもうれしく感じられます。皆様本当にありがとうございます。
  

町田根岸店 多々良高行

 

とても素直な感謝の気持ちが感じられて、「期間中多くのお客様に声をかけていただいた」のも、もっともだと思える。
「もともと人が来ない場所に、わざわざ来てもらうための店を作ること。そこに自前で土地も店も構えて、覚悟を決め時間をかけてゆっくりと育てていくことこそ緑茶の素晴らしさを伝えるためには絶対必要なこと。」そんな会長の先を見る目を信じて、夫婦で力を合わせてがんばってきた。今ではゼロからのスタートであったからこそ、積み上げる苦労より積み上げる喜びを感じることが出来たことに、ただただ感謝しているという。

 
町田店全景。
手前に駐車スペース。
 
 
リーズナブルな喫茶メニュー。
ネーミングも商品説明もアイデアとユーモアたっぷり!
 
● お茶に育てられる
お茶に関しても個性がある。開店当初、少しでも他店との違いを強調したいと考え、思い切って「あさつゆ」を前面に押し出した。何度も一煎パックを配り、試飲にも力を入れた。「個性が強いお茶なので裏目に出たときの不安はありました。キャリアが無い自分達だから出来たのかもしれない」。若いお客様を中心に「あさつゆ」が売れはじめ、お店ににぎわいがうまれた。お茶の力を信じぬいた結果だった。続いて「ゆたかみどり」「さえみどり」という品種茶のラインナップを充実させてきた。「品種茶を導入することで商品が横への広がりを持つようになった。売る楽しみが倍増しました」
「あさつゆ」は鹿児島から仕入れる。鹿児島に行き、生産家の話を聞き、新しいことにどんどん挑戦する意欲に感動したと言う。
「私はまだまだ学びの途中」とおっしゃる社長は、産地に出向き、生産家・製造者・茶商との出会いをとても大切にしている。謙虚で柔軟な気持ちで向き合うからだろうか、「お茶の世界の先輩は本当に心の豊かな方ばかりです。私のような若輩者の話でも真正面から受け取って一緒に取り組もうと心を開いてくださる。感謝してもしきれない気持ちです。」
岡部町朝比奈地区の玉露名人、前島東平さんもその一人。この感動を伝えようと、商品の横にあるビデオで生育過程を見せるという手間をかけながらの限定販売。それは稀少価値を売る、大量生産・効率化とは別の道の歩みだ。
 
● こまやかな情報発信
チラシやDMも各店工夫を凝らす。お茶について消費者の意識が薄い季節でも、欠かさず情報を流すことでお客様に忘れないでいていただけるという考えのもと、月に一度のセール告知はチラシとDMを併用する。
実際に取材の短い時間の中で、チラシを片手に初めて来店したお客様がいらっしゃった。五十代くらいの女性だ。「沢山お茶屋さんはあるのに、どうしてわざわざ来る気になったのですか?」という私の質問に、「チラシをよく見るので頑張るお茶屋さんだなあ、と以前から気になっていました。近くのスーパーに来る用事があったので、折角だから足を伸ばしてみたのです。」という答。
ユニークなのは独自のポイント会員制。「カードを発行せずパソコンでポイントを管理しています。お客様は会計時に名前を仰っていただくだけです。一円で一ポイントつき、期限を設けていません。これにより初回ソフトクリームひとつでも、ご希望の方にはDM発行が可能となります。また、店員はお客様のお顔を見て○○さまですね、と言えるよう努力しています。お名前を覚えることでお客様との距離が格段に近くなります。」というお話。
チラシを手に来店されたお客様が、長峰製茶のファンになる日は近いにちがいない。
 
 
焼津三和店。  
有機栽培茶は「山の香り煎茶」と命名された。「感謝・感動・環境」がキーワード。
焼津本社。この建物以外にも、資材倉庫・焙じ茶専用工場などを同じ敷地内に有する。
 
有機JAS認定煎茶スタート!
焼津の本社工場では二〇〇五年二月に有機JASの認定を取得した。静岡県春野町の原料を使い、「山の香り煎茶」という名称で直売店を中心に販売を始めている。認定工場になるための準備期間は約一年半。社長は「認定の取得にあたっては従業員がとても前向きに取り組んでくれました。皆の真剣なまなざしを見ると不安が吹き飛んだ。」と話す。
製品となった「山の香り煎茶」の販売面でも会社の強みを実感した。直売店の店長は大半が三〇代から四〇代。風通しが良く情報が飛び交う。「有機茶のスタートから製品化までの道のりを皆が知ってくれていた。そこに共感、連帯感が生まれた。」商品に対し販売部門の心が一つになって「このお茶の素晴らしさをお客様に伝えたい」と力を合わせることができた。「当初の予想を超える動きに驚いています。本当に心強い」
 
感謝の心が未来を拓く
経営者は十年二十年先の将来を見通すことが仕事、ということを会長から学ばれた社長は、「よって立つものへの感謝の心」を何度も口にされた。
鐘三専務の努力で直売店の力がつき道筋が開けたこと。茂樹専務の努力で確かな品質のお茶を安心して販売できること。祖父が創業した当時から今に至るまでの多くの従業員さんたちのおかげで茶業を続けることが出来ること。産地の皆さんのおかげでお茶の販売ができること。先を行く多くの御茶屋さんたちのおかげで日本茶の文化が育まれてきたこと。
社長が会長を尊敬するのは、経営者としての先見性だけではない。会社のトイレ掃除をずっと一人で続けていることもそのひとつ。入社まもなく、職人さんたちと居酒屋で飲んでいたときのこと。創業時からの職人さんがみんなにこう言った。「お前たち社長がトイレの掃除をしてくれていることに気がついているか?そのことに感謝しているのか?お前たちはこのような社長の下で働けて幸せだぞ」と。これこそが長峰製茶イズムなのだと肝に銘じたという。創業者の祖父は仕事が終わった後でも大海や紐を家に持ち帰ってきて修繕をしていた。「ものを大切にする気持ちや従業員を想う気持ちを私も受け継いで行きたい」そう語る社長の顔はとても晴れやかだった。
 

長峰製茶株式会社

本社所在地:

〒425-0054
静岡県焼津市一色45
 
電話
054-624-0671
 
FAX
054-624-0673

町田店所在地:
〒194-0034
東京都町田市根岸町500-2
 
電話
042-792-2220
 
FAX
042-792-2253

横浜金沢店所在地:
〒236-0003
神奈川県横浜市金沢区幸浦2-19-2
 
電話
045-784-7027

支店:
魚センター店/焼津三和店/横浜支店/大和店/東京田端店/東京新橋店
 
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