第47号 株式会社お茶のやまま満寿多園 増田剛巳氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、静岡県小笠郡の茶問屋・やまま満寿多園様。
環境に関する国際規格ISO14001認証取得で二十一世紀をスタートされました。

株式会社
お茶のやまま 満寿多園

代表取締役 増田 剛巳氏

率直でエネルギッシュな社長。
「実行の人」という印象。 

茶畑に囲まれた本社
創業当時のお話を、お聞かせいただけますか?
祖父と父は、お茶の生産家でした。牧の原の最南端のこの町で、荒茶を作って売る「自園自製」をしていたのです。再製業を始めたのは私。ですから、茶問屋としての歴史は約二〇年、業界の新参者です(笑)。
農業高校の茶業科を卒業し、そのまま家業を継ぐという選択肢もあったのですが、「せっかく丹精込めて作ったお茶なのだから、せめて自分のところのお茶ぐらいは、自分達の手で仕上げて売りたい。」という思いがあり、東京の北村園さんで四年ほど修行させていただきました。生産者が販路を持たないということは、自分で価格を決められないということ。その農業の弱さを克服したかったのです。
しかし、仕上げの機械もない、一軒のお客様もない。お茶の業界は系列が確立された世界で、新参者が入れる隙間はなく、本当にゼロからのスタートでした。
現在は、自園二・五ヘクタール、指定生産農家三十名三十五ヘクタールの茶園面積を擁し、自社荒茶工場で、年間九万キロの緑茶生産をしていらっしゃいます。その上、昨年四月には、ISO14001の国際規格の認証を取得され、「茶の生産加工分野では初めての取得」と話題になりました。
いやいや、順風満帆というワケではありませんよ(笑)。四年後、浜岡に戻って来た時には、完全な都会ボケ。お茶は両親に任せて、喫茶店やらハンバーガーショップやらを経営し、最終的には夜逃げして一年間行方不明になったりしましたからね。
栽培・製造・販売までのトータルシステム。

アンテナショップとしての役割を果たす小売店舗。

働きやすい環境の事務所。

研修室。
指定生産農家との勉強会もここで行われる。
行方不明?!
親に顔向けできず、東京での居場所も知らせず、ホテルニューオータニのボーイとして働きました。一年後に浜岡に戻ったのですが、ホテルで可愛がってくれた先輩が、結婚して奥さんの実家の家業であるお茶屋さんを手伝うことになって、「流通の中に沢山のクッションがあって高い。お前のところのお茶を送ってみてくれ。」と言ってくれて、それが大きな転機となったんです。
それまでは、知人・親戚の飲み茶として買ってもらい細々と商いをしている状態でしたから、「やろう! 頑張ろう!」と気合いが入りました。結局、先輩のお眼鏡に叶って、自園のお茶を一年分買っていただいたんですが、自分のお茶に自信を持つことが出来たし、とても励まされました。思いもよらない人との出会いの不思議さに感動しましたね。
もう一つ。この時に、自分の強味は何か、ということを自覚したのです。「私には、販売力はないけれども、逆に茶園のことはわかる。それは製造の基本・土台が出来ているということなんだ。であれば、土作りから安心・安全なお茶を商品化しよう。それが他の問屋さんとはちがう特長になるはずだ。」そんな風に考えました。つまり栽培・製造・販売までの一貫システムを作ろう、と誓ったのです。

   仕上げ茶のラインは、熱を発する部分と
そうでない部分を区切ったこだわりのライン

それがISO14001の環境方針へと繋がっていくのですね。
当社は、米国・ヨーロッパをはじめ海外への輸出が、現在事業の大きな柱ですので、商品力をアピールし付加価値を感じていただくためには、ISOは必須でした。しかし、だからといって、「上辺だけを繕って取れさえすればいい。」というものではない。人間の心根と同じで、化けの皮はいずれ剥がれます。
本来農業は自然と共生し、自然を守るものだったはずです。それが肥料のやり過ぎや農薬で、自然を汚染するようになってしまった。「自分だけがよければ」という時代は終わりにして、みんなで環境について自分の問題として考えていかなくてはならない時代ですよ。
完全無農薬は難しくても、きちんとデータをとって使うタイミングを合わせられれば、農薬の量はかなり減らせるのです。また、フェロモン剤を使って交尾できない環境を作り、殺さないが増やさないことで害虫を減らしていくこともできます。
当社には、「栽培指導班」が四名いて、茶園管理をすると共に、害虫の発生検査・茶園の生育調査等を行っています。そこで培ったノウハウを契約農家と共有し、日々より安全なお茶づくりを目指しているわけです。新卒の新入社員は、そのような考え方に共鳴して、土と触れる仕事を希望して入社して来る者もいるのですよ。

自動倉庫。設備投資により、
業務の効率化を計った。
海外への輸出は、どのように始められたのですか?
取引先の海苔屋さんが、アメリカで非常によく海苔が売れてね、「お茶を輸出してみないか。」とお誘いがありました。これも人との出会いがキッカケです(笑)。
一九九一年より取引が始まり、日本食のレストランを主体に業務用を販売するようになりました。今まで、海外の日本食レストランを何百軒も見てきましたが、日本食はブームですね。イギリスのスーパーでは、惣菜コーナーで助六寿司やにぎり寿司のパックが飛ぶように売れていました。
ロスでは、すし学校を見学しましたが、沢山の生徒の中に、日本人は一人もいない。日本人の板前(寿司シェフ)がいない寿司バーが登場するのも、時間の問題です。海外での業務用はリーフとティーバッグと半々のシェアですが、日本人以外のオーナーの店では、日本茶の淹れ方がわからないので、誰でも簡単に出来るように粉末タイプを作ってくれ、という依頼があり、商品化しました。海外で難しいのは水ですね。硬水の地域では、お茶の特長がまったく消えてしまうんです。
当初は、「日本の茶の文化を、そのまま世界に伝えたい。」という思いがありましたが、十年続けてきて、日本茶単独で世界に出て行くことは難しい、という気がしています。かつての中華料理のように、日本食が海外でよりポピュラーに楽しまれるようになって、それに日本茶がコバンザメのようにくっついていく、という方が現実的。ローカルの方が気軽に飲んでいただくには、日本茶に、レモンや蜂蜜を入れてもOKじゃないですか。コーヒーも紅茶も、シナモン・レモン・キャラメル・ラズベリー等々、色々な地域の多様なフレーバーを受容して、世界のメジャーな飲み物になったのですから・・・。
人との出会いを大切にしたい。

ISO14001環境方針。
二〇〇〇年十月には、再製工場・冷蔵庫・事務所・小売店舗を新しくされました。ISOと並行してですから、全力疾走の毎日だったのではありませんか?
こう見えても周到に準備するタイプなんですよ(笑)。設備については、四年前から準備をしてきましたし、ISOも一年前にキックオフしましたからね。次は有機JASに取り組んでいきたいですね。
最後にやまま満寿多園様の業務内容について教えてください。
関東を中心に、東京以北の専門店さんへの卸が五〇パーセント、残りの五〇パーセントは、輸出・海苔屋・ギフト屋・互助会等々、多様な販売チャネルとお取引させていただいています。お茶の売り場、つまり消費者が買う場所は、非常に多様化し変化しています。
この流れを見極めること、そしてどんな流れに乗ろうとも、「土作りから商品化までのすべてに責任の持てる体制を持ち、お客様へ、より安心できる、よりおいしいお茶をご提供する。」という基本をきっちり守っていきたい。そう願っています。
 

株式会社 やまま満寿多園

本社所在地:

〒437‐1601
静岡県小笠郡浜岡町上朝比奈1687
 
電話
0537‐87‐2056
 
FAX
0537‐87‐2001
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